過呼吸の私を見つめる1匹のカラス

不思議な出来事が起きたのはそんなお盆の頃です。定年退職をして、一日中うちにいた夫が、例年のごとく私に八つ当たりを始めました。仕事の合間に少しずつお盆の準備を進めていたのですが、夫には私が何もしないように見えたのでしょう。

その年は猛暑で、私の体は疲れきっていました。夫の暴言には慣れていたはずですが、あの日の夫の怒鳴り声はパワハラといってもおかしくないほどで、私の心臓にまで響き、鼓動がとてつもなく速くなりました。

2階の自室に避難した私は過呼吸に陥り、ただひたすら涙を流し、身動きもできません。ベランダ側の窓から呆然と空を見つめ、過呼吸が治まるのを待っていた、そんな時でした。

1羽のカラスがベランダの手すりに降りてきて、目の前でじっと私を見ているのです。顔のシュッとした、ちょっと小柄で若そうなカラスでした。とにかく過呼吸を抑えたくて、音も色もない静寂の中でたくさん泣けば治まるかもしれないと、涙を流しながら、物言わぬカラスと見つめ合っていました。15分ほど経ったでしょうか、バクバクする胸の鼓動と呼吸が落ち着いた頃、カラスは静かに飛んでいきました。

それからお盆に入るまで、毎日のように数羽のカラスが、我が家の庭や物置小屋の屋根の上を歩き回っていたのです。私を見つめていたカラスと同じくらいの体格のカラスでした。