叔母の夢枕に自分が立った
私はそのまま救急病院に入院し、面会謝絶に。診断は、重度のメニエール病。嘔吐とめまいの繰り返しのなか、靄のかかった世界を彷徨っていました。農家の長男で、家を守ることしか頭にない夫が病院に顔を出したのは、入院して3日後の午後、送り盆を済ませてからでした。来客には私が実家に帰っていると伝えたそうです。
いろいろつらいことを言われても、命が危ない時には一番心配して助けてくれるだろうと思い、尽くしてきた夫が、他人のように冷たかった。これは本当にショックでした。2週間入院して、元気になりましたが、夫の怒鳴り癖は直らず、退院後1年は過呼吸に悩まされました。私はこういう人の妻を何十年も頑張ってやってきたんだと、やっと気づいたのです。
それにしても、時折現れたカラスは何だったのでしょう。夫に見放され、孤独に陥った時、いつも当たり前に見ていたカラスを、自分を心配してくれる夫のように感じてしまったのでしょうか――。
後日、久しぶりに叔母を訪ねた時のこと。
「8月14日の朝6時、あなた何かあったの? 寝ている私の枕元に黙って立っていた。蒼い顔をして何も言わないからずっと心配していたんだよ。元気な顔を見られて安心した」
それは夢枕だったのかもしれない。あの数日間、私に気をつけて行動するように気づかせてくれた優しいカラスには感謝の気持ちさえ湧いてきます。