「無理するな」と伝えたいのだろうか
また別の日、私がお盆の買い物に出るため車に乗り込んでエンジンをかけようとすると突然、カラスが2羽、車のフロント部分に降りてきました。動き出せばどいてくれるのではないかと発車させると、今度は車から庭の門前に移動して、どきません。
さすがにこれは「無理するな」というメッセージに思えました。疲れきった体で、淡々と家事をこなしているのを知っているのでしょうか。「無理はしないから、お願いだからどいて」と心の中で語りかけると、カラスは道をあけてくれたのです。この日、私は買い物を早めに切り上げて、すぐ家に戻りました。
生まれて初めて倒れたのは、その翌朝のこと。おはぎを作ろうと寝室から台所へと移動した時、急に貧血を起こしたように倒れ込みました。スーッと全身の力が抜けていきます。足から崩れ落ち、気がついたら台所で横になっていました。
視界はクルクル回っていましたが、意識ははっきりしています。とっさに夫に怒鳴られると感じ、這いずって寝室のベッドによじ登りました。手も足も上がらず、頭はまったく動かず、何者かに上から押さえつけられたようにじっとしていました。
やがて力をふり絞り、かすれた声で娘を起こして、「これは普通の状態ではないから病院へ連れて行って」と伝えたのです。そんな私に気づいた夫は「ふざけてるのか。早くお盆の支度をしろよ」と吐き捨てるように言い、親戚の家へ挨拶に行ってしまいました。その時、夫が2台ある自家用車のカギを両方持って行ってしまったのです。
娘に抱えられながら、玄関までたどり着き横たわってタクシーを待っていると、庭先の電線にカラスが1羽止まって私を見ています。カラスは私がタクシーに乗り込むまでずっと電線に止まっていました。心配そうに見守ってくれていた、と表現したほうがいいかもしれません。