天袋いっぱいにお札が供えられ

中国地方の山あいの町での出来事です。ある雑誌の取材で、そこの編集長と出かけたのですが、道中何度も、「怖いぞ~、今日行くところは」と言うんです。中国山地の山間部は『八つ墓村』の舞台にもなっているし、いいものも悪いものも含めて、いろいろいそうだという認識はありました。

でもその方曰く、「オレも何回か泊まったけど、今日泊まるところは、怖いなんてもんじゃないんだ」と。なんでも、古民家の一部を移築した施設だとか。到着すると、風情はあるけれど、とくに鉄錆の味は感じませんでした。

その夜は町の人たちが大歓待してくれ、食事もおいしくて。でも食事中、そこにいる人ではない別の視線を、どこからか常に感じるのです。そこで「ここ、怖いんですか?」と単刀直入に聞いたら、町の人たちが「ちょっとねぇ」などと言いながらクスクス。なんだか皆さん、何かいるのが当たり前と思っている感じです。

いざ寝る段になり、部屋に案内されて。中を見た瞬間、「ヤバい! ここで一人では寝られない!」と思いました。そこは床の間や違い棚がある広くて立派なお座敷なのですが、立ち込める空気が尋常でなく、重い。

恐怖に耐えかねて、案内してくださった方に「この部屋、なんか重い感じがするんですけど……」と言いました。すると、「ちょっと、いわくがあってね。まぁ、見てください」。

そう言って違い棚の上の2つの天袋を開け――目に飛び込んできたのは、天袋いっぱいに供えられた無数のお札。何かを封じ込めるためとしか思えません。聞くと、昔はこの違い棚に敵の生首を乗せ、血抜きをする習わしがあった、と。思わず「え~っ、ちょっと待ってくださいよ。申し訳ないけれど、この部屋は無理です!」。