父が54歳の若さで逝き、妹も亡くなった
夫 その後は、年始に「明けましておめでとうございます」のメールをやり取りする程度のつきあいだったけど、6年くらいたって、僕が鹿児島放送局にいた時、たまたまあなたが鹿児島に来て──。
妻 元気にしているかなと思って連絡したら、会うことになったのよね。久しぶりに再会したら、札幌で会った時より明るい印象だった。
夫 会わない間に、お互いどんな人生を歩んできたか、いろいろ話したよね。
妻 私は、失恋話をした記憶がある。
夫 当時、僕は若手を育成する立場になりつつあったけれど、この先の人生をどうすべきか真剣に考えている時期で。僕の父は、突然の体調不良で検査を受けたらステージIVのがんが見つかり、54歳の若さで亡くなった。その頃、僕はまだ学生だったけれど、「死は突然やってくるものだ」と自覚せざるをえなかった。
さらに、あなたと再会する2年くらい前には妹も亡くなっている。人はいつどうなるかわからないから、悔いを残したくないな、と。私生活では、離婚したり、いろいろな意味で人生の転換期かもしれない、という話をしたよね。
妻 真面目な人だと思いました。そのうち、「お互い、相手もいないし、もしかしてあり?」という雰囲気になっていって。
夫 すごく自然な流れだったね。
妻 「結婚を前提におつきあいをしよう」と気負うのではなく、連絡を取り合って自然に任せてみよう、という感じから始まって。「NHKを辞めて新しい道に進もうと思う」という連絡があった時も、とくに将来を約束している仲でもないので、「へぇ、そうなんだ」くらいの気持ちでした。
夫 ところがその後、週刊誌に僕の記事が載って、大きな騒ぎになってしまった。
妻 激しく落ち込んでいるし、家を一歩も出られないというので、代わりに買い物に行ったりするようになって。
夫 本当にありがたかった。あなたの存在が、どれだけ救いになったか──。
妻 今、この人は弱り切っているから、私にできることがあったらしてあげたいと思えたの。
夫 あの時期を経て、お互いにこの先も支え合って生きていこうという気持ちが固まった。自分にとって何が大切か、改めて見えてきた。あの時そばで励ましてくれたことは一生忘れないし、これからの人生で、できるだけのことをしたいと思ったよ。