尊敬する妹、最強の兄
兄妹が通った和田岬小学校の近くでお好み焼き店「よりみち」を経営する森さんは、「よりみち後援会」を結成。常連客を中心に月500円で会費を募ったり、応援旗を作ったりして熱心に支えてきた。
「浩二さんと愛さんは阪神大震災で家を失い、ローンで家を買って頑張っていた。いつも車で遠方の試合会場に行くんじゃ大変だろうから新幹線に乗ってほしいと思ってね。一二三くんと詩ちゃんのためより、ご両親のための支援ですね」と笑う。
浩二さんはよく幼い2人を連れてきた。詩は甘えて森さんのことを「ママ、ママ」と呼ぶので、浩二さんは「ここは家みたいやな」と言っていたそうだ。
実際、好理江さんは家族のように2人を見守ってきた。講道館杯、グランドスラムなど毎年応援に行き、18年のアゼルバイジャンの世界選手権では兄妹アベック優勝を見届けた。オリンピックも常連客と店で観戦。下町の人たちは2人の英雄の凱旋を心待ちにする。
夙川学院高校時代の松本純一郎柔道部監督は以前、「詩がライバルと思っているのは有名な女子選手ではなく一二三です。でも兄貴より詩のほうが柔道の天才ですよ」と話していた。
詩も「阿部一二三の妹、ではなく阿部詩の兄と言わせたい」と語っている。「先に名前が出たのはお兄ちゃん。メディアに囲まれてすごかった。でもこの1年(17~18年)で自分も注目されるようになったのかなあ。そういう気持ちでやってるけど、もっと阿部詩って出たらいいかな」と。
そして今回、ついに兄に「柔道家として尊敬する妹です」と言わしめた。一方の一二三も「天才」と言われる妹に負けないよう、努力を惜しまなかった。詩は「最強の兄だな、と思います」と目を輝かせる。互いをリスペクトしながら競い、高め合った2人。歴史に名を残した兄妹の絆は固い。