なかなか筋書き通りにはなりにくい仕事や社会を前に、不平不満や裏切られたような気分を覚える方も多いのでは。でもマリさんによれば、それは精神的ゆとりの枯渇がもたらしたものかもしれないそうで――(文・写真=ヤマザキマリ)

お金がもたらした安堵感と大胆さ

お金に困らないという安堵感は、人を大胆にする効果があるらしい。

バブルの頃、ジュリアナ東京のお立ち台に上がる女性たちの服装や立ち居振る舞いもそうだったが、バックパッカーという行き当たりばったりの無謀な旅を楽しむ日本の若者たちがたくさんいたのもあの時代の特徴である。

当時のドラマにしてもCMにしても、人生を謳歌する煌びやかな男女像がメディアを席巻し、出会いや結婚も大きな肩パッドの入ったジャケットさながら、誰もが等身大以上に自分をめいっぱい着飾らせた状態での展開が当たり前だった。

でも、自分の佇まいを誇張してくれる服を常に身に纏い続けるわけにはいかない。成田離婚という言葉が流行したのもあの時代だった。

普段はデザイナーズブランドのスーツを着こなすクールでスタイリッシュな彼氏との結婚を成就させたはいいものの、いざ新婚旅行で海外に出かけてみると意外に頼りなかったり、思っていたよりかっこ悪かったりなど、相手の実態に幻滅してしまうといった顛末だったようだ。男性の立場としても、自分の本質を見抜いた時の情け容赦のない妻の態度に、夫婦生活を続けていくことへの意欲は萎えたはずだ。