母による尋常でない干渉
家を出てひとり暮らしを始めたのは18歳のとき。高校時代から音楽活動を始めていて、兄が国家試験を受ける勉強のため、家でピアノを弾けなくなった。それが直接の理由でしたが、私にとっては母の支配から逃れるチャンスでした。
アルバイトをしながら自活し、19歳でデビュー。ヒット曲も続き、シンガー・ソングライターとして順調に歩んでいました。そんななかでも、母の尋常ではない干渉は続いていたのです。
おかしいなと感じたのは、住んでいたマンションの管理人さんが、たびたび部屋に入ってくることでした。「お風呂の点検」「修繕箇所の確認」など理由はいろいろですが、合鍵を使って勝手に入ってきては家の中を見て歩く。友人が来ているときは必ずやってきました。
あとで、母が管理人にお金を渡し、私のことを逐一報告するようにとスパイもどきのことをさせていたのだと知りました。母自身も私の留守中に部屋に入り込み、チェックしていたようです。
玄関のチャイムが鳴り、出てみると包丁を握った母が切りつけてきたときは、本当に殺されると思いました。なんとか振り切って所属するレコード会社に逃げたら、父から電話が。「EPOの父だが、娘が妻を暴行し、怪我をさせたので警察に連絡する」と……。事実とは正反対のウソです。私はそれを聞き過呼吸になって意識を失い、救急車で搬送。急性ストレス障害と診断されました。
心も体も疲れ果て、逃れるように引っ越した神奈川県葉山にも母はやってきて、近所中に私に関するウソの話をふれまわったりしました。私のことを、当時、事件で世間を騒がせていた宗教団体の一員だとか。そのため地元の人から「出て行ってくれ」と言われたこともあります。
このままではどうにかなってしまう――。そんなとき、たまたま催眠療法の存在を知りました。そこで、私自身もカウンセリングを受けてみたのです。
子どもの頃からの出来事をひとつひとつ取り出し、潜在意識の中に内包された感情を見極めていく。そうすると、封印してきた悲しみや怒りが一気に溢れ出してきました。「私、こんなに悲しかったんだ」「あのとき、本当はこう言いたかった」ということを認識したとき、すっと気持ちが軽くなって。
その作業を続けるうち、起きた出来事は変わらなくても、前向きな捉え方ができるようになったのです。