2020年から続くコロナ禍。長びく自粛生活は、なぜ「認知症リスク」を高めるのか──。母親の介護をするなかで認知症に向き合ってきた新田恵利さんが、認知症予防研究の第一人者である浦上克哉さんに、コロナ下の認知症事情や予防法について聞きました(構成=丸山あかね イラスト=浜野史 写真提供=新田さん、浦上さん)
気をつけたい3つの習慣
浦上 新田さんは長く、認知症のお母さまを自宅で介護されてきたそうですね。
新田 2021年3月、母は92歳で亡くなりました。介護のはじまりは85歳のときの背骨の圧迫骨折です。退院後リハビリに励み、自宅で車いす生活を送れるまでに回復したのですが、いつしか少しずつ認知症の症状が表れはじめて……。最後まで母は母でしたが、「もし私のことがわからなくなったら」と思うと不安でたまりませんでした。
浦上 国内の認知症患者が700万人を超えるのに、あと5年もかからないと言われています。まもなく高齢者の5人に1人が認知症、という時代に突入するでしょう。
新田 併せて2020年から続くコロナ禍で、認知症問題は深刻化しているという話も耳にします。先生が診察を行っている鳥取県での様子は、いかがですか。
浦上 通院を控えた結果、症状が進んでしまった患者さんは、やはりとても増えています。私が理事長を務めている日本認知症予防学会でアンケート調査を行ったところ、コロナ禍を機に、健康だった方は認知機能が低下。軽度認知障害(MCI)と診断されていた方は認知症を発症、認知症の方の場合は病状が進行……と、いずれのケースでも認知機能が悪化していることがわかっています。
新田 健康な人やMCIの人は、発症の分かれ道に立たされている、ということですね。
浦上 外出を控えると運動不足になりますから、特に生活習慣病を抱えている方は要注意。家でお酒を飲みすぎるのもよくありませんし、他人とのコミュニケーション不足は、認知症の発症リスクを高めます。認知機能を低下させるという意味で、コロナの感染予防として有効な「自粛生活」は、認知症予防としては逆効果になってしまうわけです。