伊藤 最初に会ったのは23歳のとき。芝の増上寺で現代音楽のパフォーマンスがあって。

枝元 わたしは芝居で、ひろみちゃんは詩人として参加していた。そのときひろみちゃん、男の人と来ていて、「結婚するんだー」って言ってたのに、少しして家に遊びに行ったら離婚してたの。(笑)

伊藤 1ヵ月で別れた。(笑)

枝元 棚にネコの焼き物がいっぱいあった。「結婚式の引き出物だったけどもう使わないから」って。

伊藤 ねこちゃんは国立で男と住んでたよね。ちょっとうらやましかった。貧乏くさいのに、自由そうで、なんかおしゃれで。

枝元 学生時代から一緒に暮らしてた。70年代で、ヒッピー文化の尻尾のころだったなあ。

伊藤 あの頃は一緒に芝居を見に行ったり、たまに待ち合わせてぷらぷらしたりしてたねえ。

枝元 それでわたし転形劇場(劇団)に入ったんだよ。

伊藤 それからのお互いの引っ越した家と歴代の男はぜんぶ知ってる。あたしは26のときに男を追いかけてポーランドに行って、帰って来て子どもを産んで熊本に移住してまた産んで仕事が忙しくなって。その間ねこちゃんは……

枝元 わたしは32歳で男と別れて、家もなくなって、劇団は解散。それから料理の仕事を始めた。ひろみちゃんとは1年近く音沙汰がないなんてこともあったね。

伊藤 あったねえ。夫としゃべって、子どもの相手することで満足してたんだ。それが35くらいのときにうまく行かなくなってさ、あたし抗うつ剤とかに依存してひどかったじゃない。周りから「もうすぐ死ぬかも」って言われててさ。

枝元 30年前か。死ぬとは思ってなかったよ。

伊藤 あの頃は家族があったけど、気持ち的にはひとりだった。それでねこちゃんを頼った。文字通りかくまってくれたこともある。それからずっとそばにいる。

枝元 よく電話でも話したよねー。

伊藤 あの頃はSNSもメールもなくて、ただ電話しあってたね。

枝元 わたしは料理を仕事にしていたし、ひろみちゃんも家族に毎日食べさせてた。食べものの話なら、ずーっとしていられた。

伊藤 熊本と東京で、寒天とゼラチンとくず粉とじゅんさいがどう違うか、ぷるぷるつるつるちゅるんちゅるん、なんて言い表すか、6時間話したこともあった。「おいしかった」なら他の人とも話せるけど、ねこちゃんと話すと哲学や文化人類学みたいなとこまで深くなる。おもしろいからFAXでやりとりして『なにたべた?』(中公文庫)にまとめた。ちょうどお互い人生がぐちゃぐちゃな頃だったから、それが結構出てるよね。やりとりがセラピーだった。

枝元 うん、まずいこともいっぱい書いてた。(笑)