東京都現代美術館で開かれている展覧会『GENKYO 横尾忠則』(現在は会期終了)では150号サイズの大きな自画像にも取り組んだ

モネも白内障を患ってから「睡蓮」を描いた

今、展覧会『GENKYO 横尾忠則』が東京都現代美術館で開かれていて(現在は会期終了)、600点以上の作品が展示されています。最後の展示室にへたくそな絵が並んでいますが、耳が遠くなり、腱鞘炎で手が動かなくなってから描いた最新作も。

今回は、150号サイズの大きな自画像にも取り組みました。大仏さんみたいな大きな自画像を描いてみたらどうなるんだろうと思って。これは1日で描きあげた。実際は2時間くらい(笑)。手が痛くて細密描写ができないので、大きなハケで殴り描き。そもそも自画像なんて、時間をかけて舌なめずりしながら描くようなものではない。一刻も早く描いている行為から逃れたいという不思議な感覚です。だからあっという間にできました。

僕は絵を描き始めた頃、テーマやテクニック、様式にがんじがらめになっていました。その状態が何十年続いたかなぁ。ところが次第に身体が衰えてきてハンディが増えるにつれ、そういう技術に従うことができなくなった。自分ではそうなって初めて、「アートが始まった」という感覚があります。

目や耳に支障が出るにつれて、絵画から自由になっていく感じですね。画家のクロード・モネも白内障を患ってから、「睡蓮」という傑作を描いた。老いが人生をよい方向に導いてくれることもあるんです。病気や肉体の衰えに抵抗するからしんどくなる。若いと思って昔と同じやり方をしようとすると、失敗に終わってしまう。受け入れて折り合いをつければ、新しい生き方ができるんじゃないかな。