50年後、世界中の人々がマスク姿になるとは

昨年、新型コロナウイルスの世界的な流行が始まると、国内外の美術館やギャラリーが閉じてしまいました。あらゆる発表の場を失って、さてどうしようか、と。そこで僕は毎日、過去に描いた絵画などのヴィジュアルに、マスクや口腔のイメージをコラージュし、「With Corona(Without Corona)」としてSNSで世界に向けて発表することにしました。人類にとって未曽有の状況のなか、「日常が異常」になったことに向き合って、この連作アートを続けています。

そもそもマスクというと、69年に「舌を出した大きな口」を描いたマスク作品があります。当時、僕自身がそのマスクを装着したポートレートを石元泰博さんに撮影してもらい、雑誌『太陽』に掲載になった。それから50年後、世界中の人々がマスク姿になるとは想像もしませんでした。

横尾忠則 創作の秘宝日記』横尾忠則著(文藝春秋)。
カバーにマスク姿の横尾さんが

芸術には時々こういう不思議なことが起きるのですね。創造の根源には、未来の時間を吸い上げるエネルギーのようなものがあって、作品が無意識に未来を予感することがある。作者が予感しているのではなく、作品自体が予知をし、それが何十年後かに現れる。そういうことも含めて、芸術というのは神秘的なメディアだと思います。