葬儀に現れたTさんに思わず号泣

入院生活は10年に及んだ。父は最後の1年半は意識不明で寝たきり状態だった。母はその間、Tさんに何度も電話をしたが、まったく通じない。そしてついに父は死んだ。最大の恩人であるTさんに最後の挨拶ができなかったことが心残りだった。

しかしなんと、父の葬儀にTさんが現れたのである。私は思わず号泣した。会話もできぬままひっそりと帰ってしまったが、お香典には、新たな住所と電話番号が書かれていた。母が電話をかけると、「先生が安らかに眠ってくださることを祈っています」とだけ言っていたそうだ。

翌日、母と私は彼にプレゼントするスーツの生地を選んだ。お礼の言葉などもちろん要らない。どこかでTさんがびしっとしたスーツを着て、昔のように笑顔で仕事をしていますように。ただの父のわがままだと思っていた私たちに、病気であると教えてくださってありがとうございました。


※婦人公論では「読者体験手記」を随時募集しています。

現在募集中のテーマはこちら

アンケート・投稿欄へ

【関連記事】
1通の葉書で絶縁、墓石の名前だけで生存確認をしていた母。認知症のおかげで親子の幸せな時間が戻った
元マラソン選手・原裕美子の告白「食べて吐くために万引きを…摂食障害と窃盗症に苦しみ抜いた15年」
自己破産した義妹は、入院費、ボイラー修理代まで我が家にせびる。最終的には詐欺師まで登場して