「絶対病院なんか行かない」の一点張り

しかし、逃げる人がいれば、天から舞い降りて来る〈天使〉もいるものだ。どこからか父の話を耳にした教え子のTさんが、電話をかけてきてくれたのである。

Tさんは、卒業したあとも父がずっと可愛がっていた、ある中小企業の元社長。波瀾万丈の人生のようで、会社でなにか問題を起こしてしまったのか、社長をクビになったあと、ずっと無職の生活をしているらしい。失脚してからは長い間、父とも音信不通だったようだ。

電話の内容はこうだ。「先生はもう覚えていらっしゃらないと思いますが、学生のころからお世話になりましたTです。以前の先生とはまったく違ってしまったとの噂を聞き、心配になって電話をさせていただきました。先生の行動についていろんな方々に聞いてまわったのですが、『一度、病院で診てもらったほうがいいのでは?』と言う知り合いがいまして。どこかの病院で受診するよう提案してみてください」

すぐさま父のアパートへ行き、説得するも、「なんだ、人をバカにして! 絶対病院なんか行かない」の一点張り。説得を試みて2週間、家族は諦めかけていた。しかし、またもや絶妙のタイミングで、Tさんから電話があった。「先生、やはり病院に行きたくないと? 一度私が直接お会いして説得してみましょう」。