イラスト:川村易
身内の急な異変に直面すると、パニックに陥り、なにもできなかったりするものです。状況を打開してくれるのは、思いもよらない誰かかもしれません。山崎さん(仮名)一家は、突然の父の奇行に追い詰められていました。そこに現れたのは?

真面目で、子煩悩。熱意あふれる教師の父が…

大学を卒業し、就職のために故郷に戻ってきた夜、家族で食卓を囲んでいたときのことである。久しぶりの一家団欒! とワクワクしていると、突然父が私たち4人に向かって言った。「父さんは、明日から家を出るから。1人で暮らすアパートはすでに契約してある。これからは給料のすべてを自分で使う」。

そのころ父は50代。高校で化学の教師をしていた。私が幼いころから〈クソ〉がつくほど真面目で、子煩悩。世間では、熱意あふれる教師として評判だった。その父が突然出て行くというのだから、私たちはなにが起こったのかわけがわからない。

母、大学生の弟、中学生の妹、みんなが眠れぬ夜を過ごした。そして翌朝早く、父は本当に家を出て行ったのである。母は泣き崩れ、弟はあきれ果て、多感な年頃の妹は部屋にひきこもってしまった。家族が大好きで就職先を故郷に決めた私だけが、出て行く父を追いかけた。

しかし、父は私のどんな説得にも応じず、「じゃあね」と車を発進させてしまった。浮気をして母との離婚を考え始めたのか? とも思ったが、そういうわけではないようだ。数日後、理由を聞きに車で1時間ほどの距離にあるアパートを訪ねてみたが、意味不明なことを言い出す始末。

「手足の調子がおかしいから家を出た」
「父さんはもう死ぬかもしれないんだ」
「人生ってなにがあるかわからないねえ」