教え子の説得で父はようやく病院へ
教え子に会うことに、父は抵抗がなかった。2人がなにを話したのかはわからないが、教師と教え子の固い絆のせいか、Tさんは父の説得に成功。神経内科クリニックへ連れて行ってくれたのである。その病院の医師いわく、「総合病院の神経内科に行ってください。おそらく精密検査が必要だと思います」とのこと。
このときもTさんは、「先生、もうひとつの病院に行けば、また同窓会を開いて、おいしいお酒が飲めますよ! そのときには私に仕事を紹介してください」と、うまく言い聞かせたのである。
総合病院での検査結果は、びっくりする内容だった。「脊髄小脳変性症」という病気で、脳も萎縮しつつあり、1年後には歩けなくなって、2年後には手足に震えが出て食事も難しくなるとの診断。しゃべることもできず、寝たきりになるだろうとのことだった。
家を出て1年半、父は戻ってきた。それからもTさんは毎日のように父に会いに来てくれる。礼を言う私たちに、「先生には本当にお世話になったので、礼には及びませんよ」と言うばかり。こんなにいい人がなぜ社長を失脚したのか? いまだにその事情はわからない。ところが、弱った父がとうとう入院することになってから、彼はぱたりと姿を見せなくなった。