下品な人に上品な役は出来ない

草笛 亡くなったときにね、冷たい頬っぺたに頬っぺたくっつけて、「コーちゃん、これからもいっぱいいろんな役やりたかったでしょう? 私はまだ生きるでしょうから、私が舞台に出るときに一緒に出てね」って約束したの。だからいまでも舞台に出る間際、真っ暗になって前奏が流れるとき、「コーちゃん、行くわよ。一緒に出よう」って言って、私出て行くのよ。

清水 越路さんも嬉しいでしょうね、そんな強い友情で結ばれてて。

草笛 私のことは「クリ」って呼んでたわよ。楽屋にいると「クリ、私とあんたは、あんまり男の問題もないしさ」なんて言うの。自分はあるのにね(笑)。亡くなったの、56歳よ。

清水 若すぎますね。

草笛 もっと生きたかったと思う。私なんてそれからずっと生きて、とうとう88になっちゃった。コーちゃんの歌を歌うのはなんだかイヤだったけど、どうしても歌わないといけなかったから、やりました。歌ってるとき、コーちゃんも一緒に歌ってる気がしたのよ。

天海 そうですね。絶対いらっしゃいましたよ、一緒に。

草笛 もしまだ生きてたら、私の役、面白がって「やりたい」って言ったかな。

天海 うーん、越路さんのことだから「私、こんなおばあちゃん役、イヤよ」って言ったかもしれない。だって草笛さん、他の追随を許さないくらいの、ものすごい扮装してるから。おじいさん役で。

清水 え、天海さんのお姑さんの役じゃなかったっけ。どういう状況なのか想像がつかない。

天海 でもどんな扮装をしても、草笛さんがやるとやっぱり品があるじゃないですか。

草笛 え、なに? 死んじゃう?

天海 違いますよ。「ひ・ん・が・あ・る」って言ったんです。

草笛 「死んじゃう」って言ったのかと思った。

清水 そんなに口の悪い人はいませんよ(笑)。そういえば、三谷幸喜さんが言ってました。「上品な人は下品な役ができるけど、下品な人に上品な役はできない」って。

天海 そうかもしれないですね。

<後編へつづく


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