「祝福があなたと共にありますように」

日本人についてそういうイメージがあるのだろう、おばあちゃんはきまって両手を胸の前で合わせて、「サンキュー、サンキュー」と頭を下げた。「いや、それはアジアでも別の国の人たちがする仕草です」とことさら説明するのも野暮な気がして、わたしはおばあちゃんと同じように両手を胸の前で合わせて「どういたしまして」と言うことにしていた。するとおばあちゃんは、「神の祝福が、……ごめんなさい、ブッダの祝福があなたと共にありますように」と言う。いや、わたしは東アジア出身ですけど仏教徒ではなく、実はカトリック教徒です、と言うのもやはり野暮に思え、わたしはいつも「祝福があなたと共にありますように」と言って帰ることにしていた。

暗く長かったロックダウンの記憶の中でも、あのときのおばあちゃんの嬉しそうな小さな顔は幸福な思い出として残っている。だから、おじいちゃんがフランスから戻ってきて、一緒に紅茶を飲みながら前庭に座っている姿を見たら、声をかけないわけにはいかなかった。

80歳のおじいちゃんは陽気でよくしゃべる人だから、フランスの娘やそのパートナー、孫たちのことをジョーク交じりに話してくれた。英国陸軍勤務だったおじいちゃんは、けっこうマッチョなタイプなので、娘のパートナーである繊細な雰囲気の美術教師とは「合わない」と前に言っていたことがあるが、ロックダウンで思いがけず長い期間を一緒に過ごすと印象がすっかり変わったようで、「ナイス・ガイ」と呼ぶようになっていた。