今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『アカデミアを離れてみたら―博士、道なき道をゆく』(岩波書店編集部著/岩波書店)。評者は詩人の渡邊十絲子さんです。

新天地を得た人たちへのていねいなインタビュー

この本でいう「アカデミア」とは、〈大学あるいはそれに類する公的機関における研究環境〉のこと。

研究者が安心して研究に打ち込める環境を求めるのは当たり前のことで、たとえば大学に職を得たなら、あえてそこを去る選択はしにくい。自主的に研究テーマを決めていい環境と、誰かの与えるテーマで研究を命じられる環境とは、同じ「研究生活」という言葉ではくくれないほど違うし、自主独立を守ることでしか生まれない成果というものは確実にある。

しかし人の進路は思いがけない変転を見せるもの。ここに登場する21人は、アカデミアから離れ新天地を得た人たちだ。

ていねいなインタビューは、読んでいて気持ちがいい。

それぞれの研究者の語りを大切にしながら、かれらの歩んできた道の普遍性と個別性を伝え、さらにはその人の現状認識、理想のありかといったあたりまで、小見出しできちんと整理しながら伝えている。大学や企業での研究環境がどのようなものなのか、予備知識がない読者でも戸惑わずに読んでいける。

〈選ばなかった道の結果はわからないのですから、選んだ道が豊かになるように尽くしましょう〉(花岡秀樹)、〈大学を辞めて企業に行った人は「都落ち」した人、みたいなイメージが、まだ残っている気がします〉〈でも、必ずしもそうではないんです(略)やろうと思えばできるんじゃないかって気がしますね〉(丸山宏)、〈大学を離れ、起業している私の現在は「アカデミアを離れた」ように見えているかもしれませんが(略)むしろ研究時間が増えたので「アカデミアに戻った」感すらあります〉(山根承子)。

こうした力強い言葉は、明日の転身を夢見る人たちの背中を押してくれるだろう。