イラスト:マツモトヨーコ

厚生労働省の発表によれば、2020年の日本人の平均寿命は女性が87.74歳、男性は81.64歳と、前の年から女性が0.3歳、男性は0.22歳も延びたそうです。それだけに長い「老後」をどう過ごすかは社会全体として大きな課題になっています。歳を重ねたら年相応に落ち着いた、大人のふるまいが理想? でも「私は私の道を行く!」と考える方もきっと多いはず。フラワーデザイナーの小澤幸恵さん(仮名・74歳)の場合は…

社交ダンスではチビデブの夫でもモテモテ

交わす言葉は少なくとも、心の通い合う穏やかな二人──。そんな姿が、私の思い描く理想の老後の夫婦像でした。

しかし実際は、私が病院に通う義母に付き添っている間、夫はいそいそとスポーツジムに通う日々。忙しそうにして、滅多に病院には顔を出しません。それもまあ健康のため、と私は我慢をしていました。

ところがある日、夫に女性から電話がありました。小さな声でぼそぼそと長話をしています。不審に思っていたところ、知人から聞いて事実が発覚しました。夫が通っていたのはジムではなくて、社交ダンスのサークルだったのです。電話は会長になってほしいという、先生からの相談でした。私も知っているその先生は、同じ町内に住む60代の美しい女性です。

もともとダンスは50代の時に、老後に二人で楽しめる趣味をと、私が夫を誘って始めたものでした。しかし「おまえの足が遅れる」「あなたのリードが下手だからでしょ」と口ゲンカが絶えず、お互いストレスで挫折しました。それなのに私には内緒でサークルまでつくり、ホテルの会場を借りてほかの女性と踊っていたというのです。

「私も行きたい。一緒に踊りたいわ」

夫に頼んでみましたが、「今はメンバーがいっぱいで入っても踊れない」と断られ、「俺は何も悪いことはしていない」の一点張りです。

社交ダンスの世界は男性の数が圧倒的に少なく、チビデブの夫でさえ、モテモテなのは容易に想像がつきます。だから私を入れたくないのです。