開き直って17歳に戻り、大学受験を
悔しさで気持ちが治まらず、思わずワインボトルを振り上げて夫を追いかけました。「地獄絵だ」と逃げ回る白髪の老人を、嫉妬で頭に血が上り髪を逆立てて怒る老婆。我ながら喜劇です。醜態を演じてしまいましたが、年甲斐もないならばいっそ、と開き直りました。少女のつもりになって、やり直そうと決心したのです。
挑戦してみたいのは大学受験。50年以上前の地方の町では、特別優秀な人か経済的に恵まれた人以外、大学への進学は夢のまた夢でした。
昔から文学が大好きで、世界文学全集はほとんど読んだほどです。その面白さを3人の子どもたちにいつも語っていたせいか、3人とも留学して英米文学の道へ。子どもたちの学費のため、私は必死で営業の仕事を続けてきました。でもそれもおしまい。私は母親を卒業し、妻からも卒業するのです。調べてみると、国公立大学ならば学費は自分の年金で何とかなりそうだとわかりました。
さあ、新しいドラマの始まりです。目指すは県立の女子大。日本文学を専門の先生のもとで深く勉強してみたいのです。心はもうすっかり17歳に戻っていました。
社会人入試の受験科目が小論文と面接のみであることを知り、早速何冊も参考書を取り寄せました。作文しか書いたことがない私には、小論文とは何かを理解するだけでも大変です。毎朝4時半に起きて、過去の出題傾向を研究。自分で問題を作り、800字にまとめてみます。
ちょうど冬季オリンピックが開催されていたので、そのことについて書いてみたり、最近話題になっている言葉について考えてみたり。新聞を丁寧に読み、社会の出来事にも関心を持つようになりました。
夫のことで悩んでいた自分はどこへやら。目が疲れて、2階から東の空をふと見上げると、美しい夜明けの空。まさに「春はあけぼの」の世界が広がっていました。