「プロになって絵で稼ぐ」ために考えたこと

僕の場合、入学前は、ぼんやりと美術教師になる目標を持っていました。

「学生をどう育てるか」というビジョンが美大には欠けている?(写真提供:写真AC)

しかし、大学1年生の9月に父親が亡くなって、いつまで学費が払えるかわからない状況になり、目標を変えざるをえませんでした。

教師になるには、普通に卒業するよりかなり多く単位を取らなくてはなりません。もし、途中で学費が払えなくなれば、取った単位や単位を取るためにかけた時間が無駄になる。それであれば、プロの画家になるというチャレンジに自分の持てる力を注いだほうが結果につながるのではないか、と考えました。

そのとき、僕は絵の素人で、まったくのアマチュアでした。

しかし、たとえアマチュアランナーだとしても、プロよりも早くスタートを切れば、マラソンで42・195キロメートルを走りきり、プロと一緒にゴールできると思ったのです。

大学に入学したときから、誰よりも一生懸命に絵の勉強をしているという自負はありました。飲み会にも行かず友人らしい友人もできなかった学生時代でしたが、周りの誰よりもやっているという自負が「自分はプロになれる」という根拠のない自信につながりました。

父が亡くなってからプロの画家を目指すことを決めて、奨学金がもらえるようになるまでは、六本木のキャバクラで夜のバーテンのアルバイトをしていました。学校とバイト先の往復時間が睡眠時間。少しでも多くの時間を「絵を描くこと」に投入したかったのです。

深夜までのバイトと学校の往復は元体育会系でも体力的にかなり厳しく、そのことが一層「一刻も早くプロになって、絵で稼ぎたい」という思いを強くしてくれました。

絵で稼ぐことを意識し、まず始めたことは、様々なコンクールに出すことでした。

大学の研究室に貼ってあったコンクールや公募展の募集要項を見つけては、賞金の高いものを選んで作品を出す。落ちたり、入賞したりを繰り返していました。

でも、あきらめずに出し続けていたところ、はじめて大きな公募展で入選した絵がギャラリストの目に留まり、プロへの足掛かりとなったのです。