英国が音楽なら、日本は台風と地震

「オリンピック閉会式の生中継が中断するぐらい、台風ってすごいの?」

と息子が聞くので、それを親父に日本語で伝えると、

「おお、すごかよ。そっちは台風やら地震やらなかけん、わからんやろうけどね」

と、またなぜかドヤ顔になっている。英国が音楽なら、日本は台風と地震。なんだかよくわからないお国自慢だ。

しかし、次の開催地パリからのライブ中継映像が流れ始めると、一同しーんとなり、お国自慢も忘れて見入っていたのだったが、国際オリンピック委員会のバッハ会長の演説が始まると「もう寝る」と親父が離脱の意思を表明。「じゃ、お開きにしようか」と日英合意に達し、「世界の人々が感情で繋がり……」とバッハ会長が言ったところで、われわれのスカイプによる繋がりは切れることになった。

「バーイ。……コロナがなければ、福岡でじいちゃんと一緒に観れたのに。そのほうがきっと、ずっと楽しかったね」

通話終了前に息子がそう言ったが、通訳者はこれを訳さなかった。親父に寝床で泣かれても困るからだ。

「台風、気をつけてね」

無言でいるのも不自然なのでそう言い繕った。親父は「オッケー」と親指を突き上げ、そのままiPadのスクリーンから消えていった。