イギリス在住のブレイディみかこさんが『婦人公論』で連載している好評エッセイ「転がる珠玉のように」。今回は「通訳はつらいよ」。外国人の家族を持つ日本人女性の知人・友人がよく言う愚痴とはーー。(絵=平松麻)

日英で東京オリンピックの閉会式を観ると

「すごい。花火が全部同じタイミングで上がってきれい」

息子がそう言うと、画面のなかの親父がなぜかドヤ顔で説明した。

「あれ、実は本物やなくて、CGやもんね」

「あ、5つの輪が浮かび上がってきた」

「そら五輪って言うぐらいやけんね」

そういえば、英語ではオリンピックのことを「ファイヴ・リングズ」と呼んだりはしないな、と思ってわたしは通訳に戸惑う。こういうことからいちいち説明しないといけないから、通訳の役割を担っていると大変なのだ。英国人の家族を持つ日本人女性の知人・友人がよく言うのは、「こちらの家族を連れて日本に帰省すると、二つの家族の間で通訳しなくてはいけないから、いつも一人でしゃべりっぱなしになる」ということだ。常に日本語を英語に、英語を日本語にしながら家族間の会話を成立させなくてはならないので、しゃべっている時間がほかの人々より圧倒的に長くなり、けっこう疲れる。などと愚痴っていてもしょうがないので、日本ではオリンピックのことを「ファイヴ・リングズ」と漢字で書くことがあるんだよと説明していると、さらに親父が、

「ゴリンピック、なんちゃって」

と、くだらないダジャレをぶっ込んでくるので通訳者の苦悩はまた深まる。

日英で東京オリンピックの閉会式を観ながらスカイプで雑談しようと言い出したのは息子だった。週末にじいちゃんとスカイプ会話している時間帯が閉会式と重なったので、日にちをずらせばと提案したのだが、「『Gogglebox』みたいで面白い」と言ったのだ。

『Gogglebox』というのは英国のテレビ番組で、《テレビを観ている人たちを見る》というコンセプトで制作されている。英国の各地に住む複数の家族たちが同じドラマやドキュメンタリー、ニュースなどを観ている様子を撮影し、その映像を繋ぎ合わせただけの番組なのだがこれが大人気になり、いまや英国チャンネル4の看板番組だ。