「いい人でいるのは、もうやめたほうがいい」

ところが、気立てが良すぎる彼女は、別れてからも元配偶者の母親を老人ホームに定期的に訪ね、新しいパジャマを届けたりして世話をしていた。元配偶者はさっさと次のパートナーと遠くの街に引っ越し、母一人子一人なのにまったくホームを訪ねなくなってしまったからだ。

この友人は、地味で尽くし型の性格ではあったが、見た目は派手でセクシーなラテン系美女だったので彼女を好きになる男性が後を絶たず、ついに老人ホームで働いていた移民の青年と恋に落ちた。しばらくは18歳年下の恋人と幸福な日々を送っていたが、ある日、彼が家庭の事情で帰国しなくてはならなくなり、彼女の苦悩がはじまった。情の深い彼女は、元配偶者の母親のことを考えると、新しい恋人と一緒に英国を去るなんてできないと言うのだ。

けれども、彼女を決意させたのは恋人のある言葉だった。

「いい人でいるのは、もうやめたほうがいい」

この言葉には、彼女がいい人であることをやめても自分は彼女のことが好きなんだという意味も込められていただろう。それは彼女の中にあった何らかの呪縛を解いたようだった。

こうして友人は英国から去って行き、いまでもそのときの男性と幸福にデンマークで暮らしている。誰かのベターな半身であることをやめて、ベストな人生の伴走者を得た例である。