プリンセスにはフィジカルな遊びが向いていた

とはいえ、2、3ヵ月が過ぎた頃にはようやく彼女にも好きな遊びができた。粘土をパンチしたり、思いきり板に打ちつけたりすることに反抗のスピリットを発散させる術を見つけたのだ。ギャン泣きがおさまったかと思うと今度は「バスッ」とか「ビシッ」とか格闘技さながらのノイズを発しながら粘土を打ったり叩いたりする彼女を見ていたら、このプリンセスは庭に連れ出してフィジカルな遊びをさせたほうがいいのでは、と直感した。それで彼女にサッカーを教えたのだったが、実は運動神経が抜群だった彼女は、1年間の英会話コースが終了する頃には華麗なドリブルを披露できるようになっていた。 彼女の父親は、娘からボールをねだられたときに困惑し、「女の子がサッカーなんて……」と言ったらしい。が、母親が説き伏せてボールを買い与え、プリンセスは近所の公園でしょっちゅうボールを蹴っているらしかった。

10年以上も前に出会った彼女たちのことを急に思い出したのは、先日、イスラム主義勢力のタリバンが政権を掌握したアフガニスタンから、女子サッカー代表チームの選手たちが国外退避したという報道を見たからだ。

あのとき、ギャン泣きプリンセスの母親が言った言葉をいまでも覚えている。どうやってプリンセスの父親を説き伏せてボールを買ったのかと尋ねたら、彼女はこう答えたのだ。

「男の子の遊びとか女の子の遊びとか言わない国にわたしたちは来たんでしょ、と言ってやりました」

英語の上達が早かった若い母親の、ヒジャブの下できらきら輝いていた瞳がいまも忘れられない。