泣く泣く断ることに
てっきり褒めてくれると思いきや、いやに表情がシブい。
「おい。その話、断れ」
「ええっ」。思わぬ言葉に、私も二の句が継げません。
「いいか、お前だって、もう立派なスター役者なんだ。近々かならず主演の話がくる。そのとき初めてクビをタテに振りゃあいい。自分を安売りしなさんな」
なるほど、そういうものか。
業界を知り尽くした一郎さんのアドバイスを聞いた私は、打診を泣く泣く断り、主演の話がやってくる日を待つことにしました。
ところがどっこい。待てど暮らせど、そんな誘いは一向に来やしない(笑)。
――一郎さん、話が違うじゃねぇか……。
そうこうしているうちに、一郎さんも健さんも鬼籍に入ってしまいました。
「偉い人が『高倉の映画を断るとは、なんて太い野郎だ。もう梅沢にはオファーをするな』って怒っちゃって、大変だったらしいですよ」さる業界人からそう聞かされたのは、ずいぶん後になってからです。