教訓「大切なことは自分ひとりで決めなければいけない」

うろたえる私に、兄貴は諭すように続けます。

「なあ、富美男。お前はもう、明治座の舞台だって一枚カンバンで満員にできる花形役者じゃねぇか。いくら相手がひばりさんでも、売れているうちから二番手、三番手に下る必要はないだろう」

確かに梅沢劇団には、外の大物に力を借りることなく、自前で大型劇場を満杯にできるところまで上り詰めた誇りがあります。兄貴が言うことにも一理ある。

――ご縁があれば、いずれまたご一緒する機会もあるだろう。

そう考えた私は、ひばりさんの事務所に丁重にお断りを入れました。そのときすでに、歌姫の身に病魔が忍び寄っていたとはつゆ知らず……。

過去を振り返っても仕方がないと書いておいてなんですが、昭和の芸能を代表するお二人と共演したら、いったいどんな世界が見えていたのか。こればっかりは、芝居に生きる人間として、想像せずにはいられません。

本当に大切なことは、自分ひとりで決めなければいけない。あとから悔やまぬために―。

生涯の教訓であります。

 

※本稿は、『人生70点主義―自分をゆるす生き方』(講談社)の一部を再編集したものです。


『人生70点主義―自分をゆるす生き方』(著:梅沢富美男/講談社)

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