美空ひばりさんから共演のお話が
さて、それから数年後のこと。今度はひばりさんの事務所から連絡をいただきました。
「ひばりと一緒に、舞台に立ってもらえませんか?」
ひばりさんは歌だけではなく、新宿や梅田のコマ劇場を中心に、芝居にもたいそう精力的に力を注いでおられました。
――今度こそ逃さないぞ。
健さんの一件で懲りた私は、すぐさま共演を快諾しようと決めました。
とはいえ、当時の劇団の座長は兄貴。上下関係は絶対の世界ですから、事前に話を通しておかないわけにはいきません。
「兄貴、ひばりさんから共演のお話をいただいたんだけど……」
喜び勇んでこう切り出した私を一瞥すると、彼はこう言い放ちました。
「その話、断れ」
いつか見た光景。