子ども自らが苗字を変更することも可能
子どもが自らに意志で苗字を変更した実例があります。
父のDVと不倫により離婚したものの、老舗企業の社長であった父は、一人息子を後継者にすべく、離婚の条件として、妻の親権を認める代わりに、息子の苗字を自分の苗字にすることにこだわりました。結局、妻は泣く泣くその条件を飲み、一つ屋根の下で二つの苗字が存在することになりました。さらに当時、高校2年生だった息子を呼び付け、父は、離婚の原因の一つである不倫した相手を紹介し、結婚を宣言しました。
ただでさえ、多感な時期です。母であるA子さんへのDVも見てきた息子は、自分で法律を調べ、氏名変更手続きがあることを知りました。この息子は父が「母の主導でいいなりになった」との疑いを避けるため、手続き先の家裁の問い合わせから必要書類などまで、すべて一人で行いました。後日、A子さんと同じ苗字を認められる決定が下り、父には「すべては僕の意思」と告げ、キッパリと「父との決別」を告げたと言います。
後年、A子さんは息子が申請した同じ家裁にあることで申請をすることになりました。
その家裁は小高い場所にあり、長い長い坂を上らなくてはなりません。いつもは明るいA子さんが息子さんの行動を思い出し、しんみりと、「17歳の子が、真夏にたった一人で、どんな思いと覚悟でこの長い坂を上ったのかと思うと胸が詰まる」と涙ぐんでいました。
息子はその後、「父と違う道を僕の意思で歩いて行く。困っている人の役に立ちたい、弱者にも優しい人でありたい」と、死に物狂いで勉強に打ち込み、A子さんのWワークや親族の援助もあり、晴れて現役で医学部に入学しました。