父親と絶縁しても、相続権は失われない
ちなみに、今回のA子さんの申請は自身の苗字に関することでした。
実はA子さんは、B家に子どもがいないことからB家の養子(普通養子縁組)になり、苗字が出生時とは変わっていたのです。B家では妻(A子さんの伯母)がすでに亡くなっているほか義父の親族は全員亡くなっていたため、戸籍上ではA子さん以外の相続人がいないことになったのです。
病院や行政は「親族」に重きを置きます。実の両親と義父の仲が非常にいいこともあって、「義父が高齢になり、介護施設への入居や入院手続きを考えると、養子になった方が色んな手続きがスムーズにいくから」と実の両親の勧めもあって、A子さんは養子になったのでした。
その義父も亡くなり、A子さんが唯一の相続人となりましたが、生前の義父の遺言で、万が一のことがあったら元の苗字に戻すことになっていました。
養子になるのは、行政の戸籍課で書類を提出し、受理されて終わりと意外なほどあっけなく終りますが、A子さんのケースもA子さんの息子も苗字の変更が許可されるには、家庭裁判所に申請し、家庭裁判所で裁判官などの面接(質疑応答)を経て、審査され、許可となります。
相続がらみで言えば、A子さんの息子は父親と絶縁しても、相続権は失われず、父が亡くなれば相続権が発生します。
父は不倫相手と再婚して子どもはいません。父が亡くなれば、後妻とA子さんの息子の相続割合は1:1。(配偶者が2分の1、残りの2分の1を子どもたちで按分=民法第900条第1項)。もし後妻との間に子ども2人が誕生していたら、後妻が2分の1、残りの2分の1を子どもの人数割りにするので、この場合は、残りの2分の1を3で割る6分の1ずつの相続割合となります。