師匠に「カミサンを連れてこい」と言われ

この世界では、入門のとき師匠から、親を説得できているかを聞かれます。親くらい説得できないようじゃ、この先、話芸でお客様を納得させる芸人にはなれない。まあ、そんなところです。

しかし、既婚者の私が親を連れてくるのも変だと思ったのでしょう。「カミサンを連れてこい」という話になりました。師匠はカミサンを1時間ほど説得。最後に「それでも噺家にしたいのかい?」と聞くと、カミサンがテーブルに両手をつき「はい、お願いします」と言ったので、2008年、晴れて入門を許されたというわけです。

前座は半人前以下ですから、子どもを持てないのが不文律。ま、当たり前ですね。でもカミサンは私の2歳上なので、先延ばしにできない年齢になっていました。てなわけで、入門して2年目に子どもが生まれます。

稼ぎがほぼない夫と赤ん坊を抱え、カミサンは出産からわずか半年で銀座の仕事に復帰しました。私が帰宅するとカミサンが出勤。交代で育児と仕事をする生活を続けましたが、そのうち2人とも心身ともに限界がきてしまって。カミサンは仕事を辞めました。

それからは食費を切り詰めて最低限の暮らしを維持。貯金も切り崩して、なんとかやり過ごしました。贅沢はできなかったけれど、あの時期はすごく楽しかったですね。一所懸命やっていれば応援してくれる人は現れるし、毎日が充実していた気がします。二ツ目に上がって生活が安定したところで、子どもはさらに2人増えました。