「うちの師匠、桂伸治をはじめて見たときは、『あ、この人だ』と体に電流が走ったような気がしましたね。女性に一目惚れしたことはないのに、運命の出会いってのはあるもんです」

YouTubeで桂枝雀師匠の高座を

カミサンとつきあいはじめたのは、そんなときです。彼女も芝居をかじりながら、銀座のクラブでホステスをして生計を立てていました。一緒に暮らそうという段になって借金のことを告白すると、「私がなんとかする」とアパートの敷金、礼金、前家賃、家財道具すべて揃えてくれて。頭が上がらないですよね。

以来、通帳もキャッシュカードも預けて、管理してもらうことに。1年半も経たないうちに借金返済はもちろん、貯金まで作ってくれました。

成績が伸びる一方で、私は仕事を続けていくことに悩むようになりました。いやもちろん、セールスは立派な仕事です。でも、口がうまくてどんどん売れる分、これを一生の仕事にしていいのか……。悩みを打ち明けたら、カミサンが「生活はなんとかなるから、まずは好きなことを探してみれば」って。

そこからです。YouTubeで桂枝雀師匠の「上燗屋(じょうかんや)」の高座を見て、「落語なら好きになれそうだ」と寄席通い。入門したい師匠探しをはじめました。うちの師匠、桂伸治をはじめて見たときは、「あ、この人だ」と体に電流が走ったような気がしましたね。女性に一目惚れしたことはないのに、運命の出会いってのはあるもんです。

師匠はあの通りの人なので、「え、俺のところにきたいの? やめときなよー。31だろ。噺家なんて一生貧乏だよ」と何度も言いました。真面目に15年も修業すれば、真打にはなれるかもしれない。でもなったところで、食べていける保証なんてないし、落語をかじったこともない自分が、30過ぎていきなり入門するのは確かに無理があります。