準備期間のご祝儀仕事もナシ

2020年の春、真打昇進の正式決定が出る前に、芸協の会長である春風亭昇太師匠から電話がありました。

「準備はできているか?」

準備というのは、心構えももちろんですが、お金のことが大きい。多くの場合、真打昇進の披露興行は同期複数名で一緒に行います。つまり、披露目にかかる費用は人数割りできるのですが、単独となるとまったく違ってきます。それに抜擢ですから、お配りする扇子ひとつとっても、セコなものは作れません。そういうことも見込まれての抜擢なわけです。

都内4ヵ所の寄席でおよそ40日続く披露興行の間、お世話になる方へのご祝儀や後輩への心づけ、日々の打ち上げ、パーティー……こういったものも全額自分持ち。でもカミサンのおかげで、「大丈夫です。準備はできています」と力強く答えることができました(笑)。本当にあるのかな。日本国が発行しているお札で何千枚くらいなんでしょうかね。恐ろしくて私は聞いたことありません。(笑)

一方で、1年をかけてご祝儀仕事をいただけるのが通常なのに、コロナ禍で仕事がなかなかできない。大丈夫なのか、と心配されているのも事実です。でも来年、披露興行ができるかどうかも定かではないですしね。だから落語会で繰り返し口にしているのは、「無理はやめましょう」ってことだけ。

いつかは、心置きなく笑える日が必ずくる。それまで身体に気をつけて、ゆっくりやりましょうよ、と。色紙に一言求められれば、「明るいところに花が咲く」と書くようにしています。笑っていれば、必ずいいことがあると信じているので。お客様には笑ってスッキリしていただき、現実社会に戻ったとき、「よし、がんばろう」という気持ちになってほしい。そのために私らがいるわけですから。

カミサンは、仕事がなくて家にいる間も「身体を休められるし、久々に子どもと一緒にいられてよかったじゃない」と、あくまでポジティブなことしか言いませんでした。だからそれを見習って、「お金なんてあとからついてくる」と思いながら、日々働いています。私が語れる家計防衛術なんて、このレベルです。ま、全部カミサン頼みですから。(笑)