2016年8月、牧阿佐美バレヱ団創立60周年記念公演『飛鳥 ASUKA』の振り付けで若いダンサーに指示する牧さん(写真提供:読売新聞社)

総立ちの観客の拍手を浴びて天国に

いっぽう、牧さんに「晩年」はなかった。昨年10月に大腸がんが見つかったものの、亡くなる2ヵ月前まで、トレードマークのハイヒールに真っ赤なスーツで教え子たちを見守り、稽古場や劇場で妥協なき指導を続けた。10月20日に死去。突然の訃報に、世界中に衝撃が走った。

バレエ団には、マラーホフさん、アナニアシヴィリさん、ザハロワさんら名だたるスターから牧さんを偲ぶメッセージが届き、新国立劇場の舞踊芸術監督の吉田都さんは「日本のバレエ界に尽くしてこられた功績は、一言ではいい表せないほど大きなもの。信念をしっかりと受け継いでまいりたいと思います」とコメントを出した。

葬儀では、牧阿佐美バレヱ団のプリンシパル・青山季可さんが弔辞で謝意を示している。

「私の自慢は先生に誰よりも叱っていただいたこと。言葉の裏には良くなってもらいたいという深い愛情が見え隠れした。何度も言わせないでとおっしゃりながら、何度も何度も細かく教えてくださり、ありがとうございました」

死の前夜、牧さんのもとに、令和3年度の文化勲章が授与されるという連絡が届いた。三谷さんが「評価されてよかったね」とささやくと、意識はもうろうとしていたが「うん」と微笑んだという。バレエに捧げ抜いた人生の最後にバレエ界初の最大の栄誉。

お二人は、総立ちの観客の拍手を浴びて天国に向かったのだ。

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