「この映画は絶対につくられるべきだ、と確信したのです。それほど彼女はスペシャルだった」(C) Laurent Humbert / H&K
日本でも人気の高い歌手セリーヌ・ディオンをモデルにした映画『ヴォイス・オブ・ラブ』。脚本・監督・主演を務めたのは、女優ヴァレリー・ルメルシエさん。彼女が迫った、セリーヌ・ディオンの知られざる素顔とは(構成=平林理恵)

ショーの熱気とその後の孤独感

セリーヌ・ディオンの人生に興味を持っていた私が、彼女の映画をつくることを決めたのは、2016年12月のワールドツアーで何万人もの観客と一緒にコンサートを観たことがきっかけです。それは、セリーヌより26歳年上の夫ルネ・アンジェリルがこの世を旅立って初めてのツアー。孤独に打ち勝って一歩を踏み出す勇気に感銘を受けていた私は、実はコンサートに行く少し前からシナリオを書き始めていました。

そして、実際にステージに立つセリーヌを目の当たりにした時、そのパワフルなパフォーマンスとショーガールとしての華麗さに圧倒されるのと同時に、彼女が観客を家族のように大切に考えて振る舞う様子に心を打たれました。この映画は絶対につくられるべきだ、と確信したのです。それほど彼女はスペシャルだった。大きなコンサートホールで歌う彼女を観てあらためて、この人はただ者ではない、と感じてしまったのです。

本来私は、コンサートが終わればさっさと会場を後にするタイプなのですが、あの時だけは、観客のセリーヌに対する愛が溢れる会場があまりに心地よくて、しばらく立ち去れませんでした。

さらに言えば、そんな〈特別な〉セリーヌのなかに、自分と重なる部分を見つけたことも、映画づくりへの情熱を高める結果となったような気がします。

私自身も女優として人生の長い時間を劇場の舞台や楽屋で過ごしてきました。長く続くツアー、楽屋の鏡の前でかき込む食事、劇場を満席にしなくてはいけないという重圧。ケアを怠ることのできない声と体を抱えていることも同じだし、ショーの熱気とその後の孤独感なら私もよく知っていました。そして何よりも、うまくいかない時に、ポジティブな方向へと物事を転換してとらえようとするところが共通している、と思いました。