聞いていて、涙がツーンとこみ上げてきた。父の一人息子とは私の弟で、大学卒業後から病気で倒れるまで20年、そのストアで働いていた。弟が40代で亡くなってからも、父はその店に行き続けている。買い物かごを乗せたカートを押し、店内を回っている間、たぶん父は、確かにこの世にいた息子の存在を感じているのだ。
そういう理由なら、近くのスーパーに行けばいいとは言えない。運転手として、私はこの店を外すことはできない。そば屋は40年前から、菓子店の喫茶コーナーも随分前からの常連だ。お店の方々は、必ず笑顔で父に話しかけてくれる。
「今日は娘さんと一緒なんですね」
もしかしたらお店の方々は、本人の運転で来たのではなくて良かったと、ほっとしているのかもしれないのに、父は明るく返事をする。
「愛人に見えるかもしれないけど、残念ながら、娘なんだ」
お店の人は笑ってくれるが、私は父のジョークが気に入らない。しかし、父の「自分を知っている人がいるところに行きたい」という切実な思いはよく伝わってきた。父は言葉にならない声で、心の中で叫んでいるのだ。
「まだ生きているから、忘れないで」と。