ワクチン接種会場で大喧嘩

2021年の初夏、父の新型コロナウィルス予防接種の日が近づいてきた。私が父をかかりつけ医に連れて行くことになっていたのだが、その医院から電話がかかってきた。入荷を予定していたワクチンの量が足りなくなり、父に接種できなくなったという。

私は急いでインターネットで、集団接種会場に予約を入れた。そう報告しても、父は、しばらく待っても構わないので、かかりつけ医で接種したいと言い張る。気持ちはわかるが、コロナの感染者が急増している中で、高齢の父の予防接種を遅らせることはできない。渋々同意してもらい、郊外にある接種会場に向かった。普段スポーツイベントなどに利用される、広いドーム型施設だ。

会場までの30分の道のり、助手席に座った父は、私の運転を「下手だ」とか、「もっとスピードを出せ」だとか、ずっと文句を言っている。

腹を立てながら、やっとの思いで会場に到着すると、駐車場はひどく込み合っていた。すぐに駐車できるのは、施設の入り口からかなり離れた場所だけのようだった。

駐車場入り口で、車の窓を開けて、私は誘導係の人にお願いした。

「接種するのは高齢者なので、入り口に近いところに停めさせていただけませんか?」

係の人は快く応じてくれて、身障者の駐車スペースの方向を指差して、誘導しようとした。その時、いきなり父が窓を開けて大声で言った。

「年寄り扱いするな! 普通の場所でいい!」