車庫の後ろ側の壁が抜けて、後部座席のガラスが粉々に割れた。驚いた父はギアを切り替えて、今度は向かいの家にぶつかった

とうとう父は事故を起こした

「お姉さん、どこにいますか? すぐ来られますか?」

義妹はひどく動揺していた。

「ごめんなさい。今、東京にいるの。父に何かあった?」
「事故を起こして、エアバッグが出て……」

一番恐れていたことが起きてしまった。私はカフェの外に走り出て、大声で義妹に聞いた。

「人を巻き込んだの? 誰かにケガさせた?」
「物損だけです! 人をひいてはいません! お父さん、血は流していません」

良かった。力が抜けて、へなへなとしゃがみ込みそうになった。正直なところ、父の安否はあまり問題ではなかった。事故であろうが病気であろうが、93歳まで生きたのだから、本人も家族も悔いはない。でも人身事故で、これから未来のある人の人生を傷つけたら、取り返しがつかない。

「車は壊れて動きません。家の前の道を塞いでしまっています。お義父さんの車関係のこと、私はわからないので、連絡お願いします!」

私が早急にしなければならないのは、事故処理に動くことだから、一旦、義妹の電話を切った。父の車の点検や任意保険の契約は、8年程前から私の知り合いのディーラーに頼んでいる。担当者に電話すると、警察への連絡やレッカー車を手配し、すぐに現場に向かうと言ってくれた。