後部座席のガラスは粉々に割れていた

冗談を言えるくらいしっかりしているのに…

再び義妹と話し、事故の状況がわかってきた。義妹はたまたま仕事が休みで近くにいて、車を車庫にぶつけた「ガシャーン!」という音を聞いた。買い物から帰った父が、バックで車庫に入れる際に、勢いよくアクセルを踏んだらしい。

車庫の後ろ側の壁が抜けて、後部座席のガラスが粉々に割れた。驚いた父はギアを切り替えて、今度は向かいの家にぶつかった。運良くその家の損傷はほとんどなく、むしろ父を心配してくれて、その家の人がすぐに救急車を呼んでくれた。ご近所のあたたかさを感じた。

胸部を強く打っているので、骨折の検査を受けなければならないし、心臓の異常や脳の損傷がないかも調べる必要があるらしい。しかし総合的に診察できる受け入れ病院が見つからず、救急車の中で待機中だと義妹は言った。電話から父の声が聞こえる。

「久美子か? どこにいるんだ?」 
「東京だよ」

「あれ? カレンダーに出張と書いてなかったけどな」

こんな時だけ記憶がしっかりしているとはどういうことだ。

「ごめんなさい。忙しくて、書くのを忘れていたの」
「俺より先にボケたのか?」

オーマイ・ダッド! 

そんな冗談を言えるくらいしっかりしているのなら、なぜ車庫入れであんなことになるのか。救急病院の付き添いを義妹に頼み、私は夕方と翌日の仕事をキャンセルすると、急いで羽田空港に向かった。乗り継ぎが順調で、都内を出発してから4時間半程で、父の家に到着することができた。父はうつろな目をして、居間の椅子に座っている。