叫んだかと思うと、包丁を振り回し…

もちろん近所からは苦情の嵐。しかし、注意しても「俺じゃない」と激高し、聞く耳を持たない。ある日、言っても仕方がないと思い「墓地の排泄物を一緒に片付けてくれない?」と下手に出て頼んでみた。すると、ついてきたはいいもののまったく手伝わない。「誰がこんなことするんやろうなあ」と、どこまでもとぼける始末だ。

また、自宅で火事を起こしたこともある。幸い被害は納屋だけで済んだのだが、原因は煙草の不始末。納屋には夫用に灰皿を用意している。にもかかわらず、夫はわざわざ雨戸の戸袋で火を消したのである。あっという間に火は燃え上がり、消防車、パトカー、新聞社が家を取り囲む大騒動になったそうだ。

仕事から帰宅中だった私は知り合いに連絡をもらい、あわてて戻った。すると夫は、家のベッドでのうのうと寝ていたのである。起こして問い詰めても、何を騒いでいるんだと我関せずの態度。私は怒る気力すら失くしていった。

年を重ねるごとに夫の奇行はエスカレートしていく。不思議なのは、これらの奇行を、半分くらいは素面で行うということ。アルコールのせいではないとすると、何が原因でこうなったのか……。

そんな夫に振り回される日々が10年続いたある日、ついに夫は事件を起こす。被害者は妻の私だ。これは今思い出しても恐ろしく、トラウマになっている。冬の寒い夜、すでに戸締まりをした家の中でのことだった。

私の小言に激高したからなのか、今でもはっきりと覚えていない。

夫が突然叫んだかと思うと、包丁を振り回し、私を追いかけてきたのだ。