大人のピアノは子供とは別物

そうか……みんな、ピアノやりたいんだね!

『老後とピアノ』(著:稲垣えみ子/ポプラ社)

よくわかります。だってピアノが弾けるって本当に素敵です。もちろん楽器をやることはなんだって素晴らしいと思うけれど、ピアノはまた格別なんじゃないだろうか。

何しろまず、一人で曲を完成することができる。そしてクラシックからジャズからポピュラーからピアノの名曲は数限りなく。つまりはピアノとは、たった一人で好きな音楽を自在に奏でることができる稀有な楽器なのである。

それに何よりも、右手と左手を自由に操り、華麗な旋律やめくるめく和音を次々と繰り出す姿は実に知的であり、大空を飛び自由にさえずる鳥のようでもある。ああ私もあんなふうに弾けたなら……。

ということで、皆様こぞっての「いーなー」なのでありましょう。

じゃあさ、ぜひともやってみませんか?

なにしろ私だってできたのだ。ピアノも持っておらず、今更手が動くのかも全くわからず、でも勇気を出して一歩を踏み出したらちゃんとできたのだ。

そして、やってみて本当に良かったと心から思う。

何が良かったのかは著書の『老後とピアノ』を最後までお読みいただければわかるとして、確実に言えることは、子供の頃にやっていたピアノと、大人になってからやるピアノとでは全く別物ということだ。

子供の頃はピアノと言えば「やらされる」ものであった。つまらない地道な練習に耐えねばその先はないのだと思い、いつになったら「その先」が来るのかよくわからぬまま、兎にも角にも恐ろしい先生に見張られながらビクビクと練習するしかないというものであった。

でも大人のピアノは違う。誰に強制されるわけでもなく「弾きたいから弾く」ことがこれほど気持ちいいものかと誰もが驚くだろう。ゴールがないというのもいい。言うまでもなく、いい年こいた大人が今更熱心に練習したところで、言っちゃあ何だがたかが知れているのである。

それでも弾くのが楽しいというのは実に新鮮な世界である。

それを経験してしまった身としては、このような素晴らしい世界を独り占めしておくのもどうかと思うのであります。

なので、本書では、一人でも多くの方が勇気を出してこの世界に飛び込むきっかけになればと、不肖私が実際にどのようなピアノライフを送っているかについて書いてみた。

もちろんやり方は他にもいくらでもあるだろうし、私のやり方は特殊なケースだと思われるかもしれない。実際、かなり特殊である。それでもあえてこれを書くのは、その気にさえなれば、やり方なんてもう本当にいくらだってあると言いたいのである。肝心なのは一歩踏み出すこと。そして諦めないこと。

ということで、気楽に笑いながら読んでいただければ幸いである。