プロのピアニストに習うということ

ところで、私だってまさか、プロのピアニストにピアノを習うなんて思っていなかった。

だって……普通に考えて、それはピアニストを目指す人がすることでしょう? 私、ピアニストを目指すどころか40年ぶりにピアノの練習を再開した、要するにほぼ初心者であり、しかも年を食っている。つまりは将来などない。

となれば図々しいにもほどがある、神をも恐れぬ非常に申し訳ないこととしか思えないではないか!

……にもかかわらず、ピアニストにピアノを習っているわけです。はい。

なぜこんなことになっているかというと、ひょんなご縁からピアノ専門誌に「40年ぶりのピアノ再開」の実録記事を書くというところから話が始まったので、編集部の方が私のモチベーションが上がるようにと若きイケメンピアニストを連れて来て……って、いやいやキイテナイヨ!?

っていうかモチベーションも何も恐れ多すぎて何をどうしていいのかわからないよ!?

だが話は私の与り知らぬところで既にとんとん拍子に進行し、驚いたことにイケメン先生自身もたいそう面白がっておられるとのこと。いやいや面白くないから! などとひとしきり騒いだものの、結局はそのようなことになってしまった。

で、結論から言うと、これは私にとっては大正解だったのだ。いやもちろんそう思っているのは私だけで、当初は面白がっていたらしい先生も今やどう思っているかはわかりません(怖くて聞けません!)。しかし今となっては望外(ぼうがい)のご縁をつないでくださった編集部の方に感謝してもしきれないのであります。

で、ここで重要な情報を一つ。ピアニストにピアノを習うことは、これといって特殊なことでも特別なことでもないらしいのだ。

お金さえ払えば才能も実力もコネもいらない。子供だろうが大人だろうがちゃんと教えていただける。その「お金」というのも、世間の普通の「ピアノの先生」とそう変わらない。不肖の弟子としては我が先生を安く見積もられたようで納得いかないところもあるんだが、良い悪いは別として、これが現実なのであります。

というわけで、そうなんです。あなたもその気にさえなれば、今すぐにでもピアニストにピアノを習うことができるんです! 一度きりの人生、そのようなチャレンジも是非! ……と勢い込んで言いそうになって、ふと気づいた。

言うまでもなく、先生がすごいからといって自分がすごくなれるわけでは全くない。

「私、ピアニストにピアノ習ってるんだ!」と自慢すれば、もれなく「すごーい」とは言ってもらえるものの、ただそれだけというのも寂しいものがある。

何よりも肝心なのは自分自身が楽しくウキウキとピアノを弾き続けること。そのためには、自分の目的や性格や考え方に合った先生を選ぶことが一番である。

※本稿は、『老後とピアノ』(ポプラ社)の一部を再編集したものです。


老後とピアノ』(著:稲垣えみ子/ポプラ社)

朝日新聞を退職し、50歳を過ぎて始めたのは、ピアノ。人生後半戦、ずっとやりたくても、できなかったことをやってみる。他人の評価はどうでもいい。エゴを捨て、自分を信じ、「いま」を楽しむことの幸せを、ピアノは教えてくれた。老後を朗らかに生きていくエッセイ集。