刺身に唐揚げ、煮物にマカロニサラダが和机とちゃぶ台に並び、部屋着に着替えたみのりの父もやってきて、七時過ぎに夕食となった。伯父夫婦と両親、みのりの五人の夕食に、会話が混じり合いながらせわしなく飛び交う。
陸が学校にいかず祖父母宅で漫画を読んでいることを、彼らがさほど深刻にとらえていないこと、来年の聖火リレーに申しこんだらどうかと伯父は陸に勧めていること、祖父の施設入所を真剣に考えていて空きをさがしていること、嘉樹たちは今日は家族で回転寿司を食べにいっていることなど、みのりがもっと知りたいことからどうでもいいことまで流れるように会話は進み、またべつの会話へと移っていく。
「それであんたはなんで戻んできたんな」母の珠美(たまみ)が急にみのりに顔を向けて訊く。
「なんちゃない、陸のこと、由利ちゃんが心配しとったから、様子見ようかなと思って」自分のコップにビールをついでみのりは答える。
「おまえが様子見たって仕方ないやろ」父が言い、
「そやけど。でもほら、東京に何日か連れていくとか、したほうがええんかなとも思って」みのりは言う。
「東京に連れていったって」母が笑い、「陸は明るいしお調子者やから心配いらんよ」容子伯母が真顔で言う。
「そんなにしょっちゅう戻んできて、よくヒサッさんに文句言われんな」母が呆(あき)れたように言う。
「ヒサッさん元気?」容子伯母が言い、
「ヒサッさんて映画の」克宏伯父が記憶を呼び出すように天井を向き、
「監督とかそんなんとちゃうで、映画の会社のな」母が補足し、
「それにしても残念やなあ、子どもがおらんのは」伯父が天井を見たまま言って、にぎやかだった食卓に気まずい沈黙が一瞬落ちる。
あんたな、そんなことは今は言うたらいかんって嘉樹にも大晴(たいせい)にも言われとるやろ。そんなとこがそんなんやからユキノちゃんやっていやがってこんのやわ。回転寿司なんていつだっていけるのに。みのりちゃんがきとるっていうのにな」早口で容子伯母がたしなめて、
「いやがってこんのとちゃうやろ、子どもは回転寿司が好きやけん」とりなすように父親が言う。
「子どもがおらんからこうやってちょいちょい帰ってこれるんや、寿士さんもやさしいし、私はしあわせもんやな」みのりは軽い調子で言い、コップのビールを飲み干した。「あ、おじちゃん焼酎にする? そやったら私もそうするけん」
「おお、ほんだらおまえ氷頼むよ、いや水か」
「ええよええよ、おばちゃん座っとって。私が持ってくるけん」みのりは立ち上がり、台所に向かう。