成人した子供の犯罪に、親は責任をとるべきか

「食卓のない家」は、一言でいえば、当時の中産階級家庭(父親の社会的地位はそこそこ高く、日常的家事が家政婦に委ねられている)の息子が、過激派組織の引き起こした立てこもり、リンチ殺人事件に関わり逮捕されることで、その家族関係が崩壊していく話だ。

『食卓のない家』(著:円地文子/中公文庫)

その中で、罪を犯した本人のみならず、その家族が世間の非難にさらされる状況の中で、親と成人した子は別人格、として、謝罪に応じず、拘置所にいる息子のために弁護士を依頼することや差し入れすることさえも拒否する父親、鬼童子信之の行動と心境が詳細に描かれていく。

つまりこの作品の力点は、成人した子供はもはや独立した一個人で、主体性をもって行動したその結果は本人が引き受けなければならない、自分のとった行動について責任を取るのは本人である、という西欧的個人主義が、日本の社会風土と家族関係の中ですさまじい抵抗を受けていく部分にあり、幻の革命を夢見て大量リンチ殺人に至った当時の若者の思想信条や、若者をそうした行動に走らせた当時の政権の有り様を描いたものではない。