「この先はハンコ押してくれたら」

デビューのキッカケはジャガーの古いビデオだったという。インディーズで大成功を収めて、様々なメジャーレーベルからの誘いがある中で、東芝EMIの担当者は彼らが千葉県出身のバンドだと知ってか、「お宝映像あるけど観ない?」と、2本のビデオ鑑賞会を開いて彼らを誘い出したのだそうだ。

『ジャガー自伝-みんな元気かぁ~~い?』(著:ジャガー/イースト・プレス)

1本は、千葉を代表するX JAPANのビデオ。最初期に業界向けに作成された幻の逸品らしい。そして残りのもう1本が、「HELLO JAGUAR」を始めて間もない86年初頭にオンエアされた「トゥナイト」出演時のビデオだった。

再生ボタンを押すと画面に現れてきたのは、本八幡駅に愛車の白いコルベットに乗って颯爽と登場するジャガー。と同時に、それを観た千葉出身のバンドメンバーたちの脳裏に強烈な思い出が蘇える。

「HELLO JAGUAR」の放送終了からはや数年。「先輩が言ってたんだけど、ジャガーって**らしいよ?」と小中時代に同級生同士で散々、半ば伝説を語り継ぐかのように話題にしてきたあのジャガーが、久しぶりに目に飛び込んできたのだ。

世の中から消え去った今でさえも、ROUTE FOURTEENや本八幡サードステージに出ている知り合いのバンドマンたちと、「今こうしているらしい」とたまに噂話をする。

「トゥナイト」の映像はそのまま進んでいき、洋服直し店や自ら経営する喫茶店が映し出され、「5つの事業をなされてまして、従業員も90人ぐらいいるという青年実業家でございます。人は見かけで判断しちゃいけないんですよ。でもどうしてあんな格好をされているのか? そのへんのところをじっくり聞きましたんで、とりあえず観てください。どうぞ!」という野沢直子さんのフリとともに本店2階のジャガーの自宅へとカメラは潜入していく。

懐かしさのあまり声を上げて大喜びしたメンバーたち。すると何を考えたのか、東芝EMIの担当者は無慈悲にビデオの停止ボタンを押して、こう言ったそうだ。

「この先はハンコ押してくれたら」

こうしてはるかにいい条件を示してきたレーベルを差し置いて、東芝EMIとの契約書にハンコを押したバンド、それが木更津出身の氣志團である。