ニッポン放送からの電話
そんなある日、もうバンドシーンとは無縁の世界で生きていたジャガーの元に、一本の電話がかかってきた。
「はい、『洋服直し村上』です」
「すみません、そちらジャガーさんのお店でしょうか?」
「いえ、もうジャガーはおりません」
「いや、あの、せめてお話だけでも……」
電話の主は、「オールナイトニッポン」の人だった。氣志團の綾小路 翔くんのラジオ番組を担当していて、どうしてもジャガーを呼びたいと言っている、とのことだった。木更津を舞台にしたテレビドラマ『木更津キャッツアイ』にも出ていて、それもたいそう高視聴率なのだそうだ。
でも、そんなバンド知らないから、お断りしようかと思った。そもそも、もう「HELLO JAGUAR」をやめてから何年も経っているし、今さらどういう顔をして出たらいいのかわからない。しかし、彼らはその「HELLO JAGUAR」を子どもの頃からずっと観て育ち、それに影響されて音楽をやるようになって今に至るのだという。
熱意に押される形で、ひとまずお台場のニッポン放送まで打ち合わせに行くことになった。ニッポン放送はフジテレビのビルの中に入っている。受付で待っていると、担当ディレクターの方が目をひん剥いて驚いた。
「まさか正装で来ていただけるとは!!」
ジャガーとしての依頼を受けたのだから、打ち合わせもジャガーとして行くべきだろう。そう思って、新しくメイク道具を買い直して、半分忘れかけたやり方でメイクをし、そして久しぶりの衣装に袖を通して臨んだのだ。もちろん、ジャガーだってやや緊張もしている。
そしてディレクターは綾小路 翔くんがジャガーを呼びたがっている理由をこう説明してくれた。
「氣志團は、オールナイトニッポンに出るのが中学生の頃から夢だったそうなんです。その番組に誰か呼ぶことになったときに、それは今売り出し中のミュージシャンではなく、ジャガーさんしかいないと。中学生の頃から抱いていた夢をひとつずつ叶えていっているバンドなんです」
なんか自分と似ているバンドだなと思った。彼らがジャガーのことを“千葉の英雄”と呼んでいるらしいことにはいささか照れくささも感じるけど、面白そうな相手なのでラジオに出ることにした。