『最後の講義完全版 上野千鶴子 これからの時代を生きるあなたへ 安心して弱者になれる社会を作りたい』(著:上野千鶴子、NHKグローバルメディアサービス 、テレビマンユニオン/主婦の友社)

「家事は不払い労働」という定義について

不払い労働とは、英語でunpaid workのことですが、不払い労働の概念にはふたつの含意があります。第一は「家事も労働だ」というものです。第二は、しかも、「不当に支払われない労働だ」というものです。

これに、真っ先に猛反発したひとたちがいます。現役の主婦たちでした。そのひとたちは「わたしのやっていることは、愛の行為。お金に換算することのできない、価値のある行為だ」といいました。

ある行為が労働かどうかということを定義するのに、とても簡単な基準があります。「第三者評価基準」といって、その行為を第三者に移転できるかどうかで決まります。

人間が自分の生命を維持するために、他人に代わってもらえない活動があります。たとえば、排泄とか食事とかがそうです。こういう活動は、今ちょっと時間がなくて忙しいから、代わりにうんこしといてって他人に頼むわけにいきません。

これは、他人に代替してもらうことができない活動ですが、育児のほとんどは代替できます。授乳も乳母に代わってもらえます。妊娠と出産だけは誰にも代わってもらえないと思われてきましたが、当時から30年たってみて、出産でさえ代理母に代替してもらえる時代になりました。