なぜならマルクスがそういっているから
不払い労働論が登場したとき、大変な抵抗にあいました。バッシングは、ふたつの方向からきました。
ひとつは、先ほどいったように、主婦たち自身が反発したことです。それに応援団の保守系のオジサンたちが悪ノリして、主婦をほめそやしました。主婦は価値ある仕事をおやりですっていうわけです。
そんなに「価値ある仕事」ならあんたがやれよ、と思います。もうひとつは、専門のマルクス経済学者たちからバッシングを受けました。彼らはこういいました。
「家事は労働ではありません」
家事を労働だというのは、あなたたちが経済学に無知だからだ、と。
当時、主婦は「3食昼寝つき」といわれていました。けれど、実態は、朝から晩までコマネズミのように働いて、わたしはこんなに疲れてるんだけど……と女性たちがいうと、彼らはこう返しました。
「家事がなくてはならない必要労働であることを、認めてあげてもいいけれど、でもそれは価値を生まない不生産労働です」、なぜなら、「マルクスがそういっているから」と。
※本稿は、『最後の講義完全版 上野千鶴子 これからの時代を生きるあなたへ 安心して弱者になれる社会を作りたい』(主婦の友社)の一部を再編集したものです。
『最後の講義完全版 上野千鶴子 これからの時代を生きるあなたへ 安心して弱者になれる社会を作りたい』(著:上野千鶴子、NHKグローバルメディアサービス 、テレビマンユニオン/主婦の友社)
「あなたは人生最後の日に何を語りますか」という問いに答え、各界著名人が1度きりの特別講義をするNHKの人気番組「最後の講義」。本書は社会学者・上野千鶴子さんによる回のテレビ未放映部分を含んだ完全版。家事が不払い労働であること、家事、育児、介護、看護がすべて一人の女性の負担になってきたことなど、女性の幸せのために研究してきた上野さんの歴史、そして考えるべき女性学・ジェンダー学の問題点がここに!