日本における女性学、ジェンダー研究のパイオニア的存在である東京大学名誉教授・上野千鶴子さん。2021年3月「人生最後の日に何を語るか」というテーマで著名人が特別講義をするNHKの『最後の講義』へ出演、視聴者へメッセージを伝えました。番組によると「家事は不払い労働」という定義を女性学へ持ち込んだことを自らの功績の一つと考えている一方、発表当時、各方面からは猛バッシングを受けることになったそうです。
私は何と格闘してきたのか
1990年に刊行した『家父長制と資本制』(09年に文庫化。岩波現代文庫)の一番最後のパラグラフに、わたしはこんなことを書いています。
「最後に……なぜ人間の生命を生み育て、その死を看取るという労働(再生産労働とも、ケア労働とも言います)が、その他のすべての労働の下位に置かれるのか、という根源的な問題である。この問いが解かれるまでは、フェミニズムの課題は永遠に残るだろう。」
女がなぜ「ケアする性」なのかという謎を解けば、女の問題のうち、100%とはいいませんが、かなりの部分は解けます。わたしたちは、女性学・ジェンダー研究という学問で何をやってきたかというと、この問題と格闘してきたんです。
女性学は、女の経験の言語化・理論化をやってきた学問です。日本の女性学に対するわたしの貢献は、家事は不払い労働だという定義を持ちこんだことです。